中国の「ブロックチェーン+応用」に基づくケーススタディ【中国問題グローバル研究所】

2020年1月22日 17:03

印刷

記事提供元:フィスコ


*17:03JST 中国の「ブロックチェーン+応用」に基づくケーススタディ【中国問題グローバル研究所】
 

【中国問題グローバル研究所】は、中国の国際関係や経済などの現状、今後の動向について研究するグローバルシンクタンク。筑波大学名誉教授の遠藤 誉所長を中心として、トランプ政権の ”Committee on the Present Danger: China” の創設メンバーであるアーサー・ウォルドロン教授、北京郵電大学の孫 啓明教授、アナリストのフレイザー・ハウイー氏などが研究員として在籍している。関係各国から研究員を募り、中国問題を調査分析してひとつのプラットフォームを形成。考察をオンライン上のホームページ「中国問題グローバル研究所」(※1)にて配信している。

◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページでも配信している孫 啓明教授の考察考察『中国の「ブロックチェーン+」の国民生活分野における応用の投資』(※2)の続きとなる。

———

ブロックチェーン技術の誕生は、本当の意味でデジタル経済に新しい価値移転チャネルを提供し、その応用範囲は無限である。中国工業情報化部が2016年に『中国ブロックチェーン技術・応用発展白書』を正式に発表して以来、テンセントは「ブロックチェーン+」応用の研究に取り組んできた。

テンセント・クラウドブロックチェーン(TBaaS)プラットフォームは、従来の製造企業がコスト上昇、収益低下、イノベーション能力不足などの問題に直面する中で、クラウド上のAI、ビッグデータ、クラウド・コンピューティングなどの技術を組み合わせ、従来の企業に全方位の変革案を提供できる。主にブロックチェーン技術を利用して、企業の調達・生産・販売をリンクさせ、サプライヤーの生産と供給時間のバランスを取ることができる。さらに部品供給のトレーサビリティと追跡が可能となり、時間を短縮し、品質の信頼性の向上にも寄与する。バイヤーが発注通りに注文し、生産者もオンデマンドで生産し、ブロックチェーンノードが反映する市場状況に応じて動的に調整して、可能な生産と在庫を最小限に抑えることができる。企業内の生産プロセスにおいては、ブロックチェーンの導入により、スマート製造を実現できる。モノのインターネットが提供したデータにより、企業は上流および下流の情報に基づいて生産を動的に調整できるだけでなく、生産データをリアルタイムでブロックチェーンにアップロードし、インテリジェント(スマート)な販売・サービスの基盤を提供できる。

2019年まで、すでに実現したテンセント・ブロックチェーン・アプリケーションでは、「ブロックチェーン+人々の生活」のプロジェクトが特に注目を集めている。ブロックチェーン・デジタル領収書プロジェクト「税務チェーン」、中小企業にサービスを提供する「マイクロ企業チェーン」、司法部門のための証拠を保存する「至信チェーン」および「都市商業銀行為替手形プロジェクト」は、ケーススタディにとって典型的な事例である。

1. ブロックチェーン・デジタル領収書プロジェクト「税務チェーン」
税務チェーンはデジタル領収書の発行、払い戻し、申告、監査などのプロセス全体を管理し、コスト削減、効率向上と同時に、納税者にパーソナライズされた便利なサービスを提供できる。2019年8月5日まで、税務チェーンはすでに600万件近いデジタル領収書を発行し、一日平均発行数は4.4万枚で、金額合計は39億人民元に達した。インターネット製品として誕生したブロックチェーン・デジタル領収書によって、税務機関の全てのプロセスにおけるトレーサビリティ、業務の 非中央集権化、税務処理のオンライン化および払い戻しのペーパーレス化が実現可能となった。税務チェーンは多くの中小企業に低コストのサービスを提供でき、より安全な方法で金融機関の事業規模を拡大させ、政府、銀行および企業のデータ共有とウインウインな状況を実現できる。ブロックチェーン・デジタル領収書は、中国初のブロックチェーン+領収書エコシステム研究の成果である。

2018年8月、国家税務総局の指導の下に、テンセントは深セン税務局と提携し、深セン国際貿易回転レストランで中国初の外食産業ブロックチェーン・デジタル領収書を発行した。2018年10月9日、ブロックチェーン・デジタル領収書プロジェクトは中国工業情報化部情報通信研究院の「信頼できるブロックチェーン事例トップテン」で第一位を受賞した。2018年11月1日、招商銀行は金融業界の代表として中国初の金融業ブロックチェーン・デジタル領収書を発行し、2018年11月8日小売業界の大手ウォルマート、2019年3月深セン地下鉄福田駅がそれぞれ小売業界、鉄道運送業界初のブロックチェーン・デジタル領収書を発行した。

今の所、現れたばかりのブロックチェーン・デジタル領収書は、金融保険、小売業者、外食産業だけでなく、WeChatネットショッププラットフォーム、WeBank(テンセントが主導して設立された中国初のインターネット銀行)、不動産管理会社、駐車場など、多くの分野で大きな発展を遂げている。

2. マイクロ企業チェーン
2018年10月まで、中国には9,311万の中小企業があり、50%弱の税収、60%のGDP、70%の特許、80%の雇用はいずれも中小企業によって賄われている。しかし、中小企業の資金調達の難しさは世界的な問題であり、中国も同じだ。中国の中小企業の売掛金総額は20兆人民元を超えているが、ファクタリング(銀行に債権を移管し、融資を受ける)を通じて調達してきた金額は3兆人民元でしかなく、まだ17兆人民元の資金は眠ったままである。

この問題に対して、テンセントのマイクロ企業チェーンは、まず、分割できない売掛金をデジタル化し、信頼でき、分割可能、流通可能な金融資産に転換し、デジタル債権証書を生成した後、資金調達を行い、売掛金を活性化させ、その流動性管理を強化することによって、低コストで眠っている資産を、低リスク・高利回りの資産へと転換できた。マイクロ企業チェーンプラットフォームのバックエンドは、銀行、証券会社、信託、資産証券化資金などの資金と接続しており、プロセス・チェーン全体のクローズドマネジメントを実現している。2019年5月17日、マイクロ企業チェーンABSプロジェクト(資産証券化方法の一つ)が深セン証券取引所の承認を受け、複数回に渡る証券発行によって100億人民元程度の資金を調達した。

このようなブロックチェーンに基づく新しいサプライチェーン・ファイナンスによって、企業の経営情報をより正確に、完璧に金融機関へ提供でき、金融が実体経済に、より良いサービスを提供でき、中小企業がより簡単に金融支援を利用できるようになる。

3. 司法証拠を保存する至信チェーン
至信チェーンはまずスマート司法のインフラになることを目標とし、すでに最高人民法院の認可を得て、中国唯一のモバイル訴訟プラットフォーム「中国モバイル・マイクロ裁判所」を設立した。いくつかの地方高等裁判所は、「至信チェーン」に参加し、コアノードになっている。現時点このブロックチェーンには、1000万超えの証拠データが格納されている。至信チェーンは司法証拠の信頼性を高め、司法コストを削減し、司法効率を向上させた。至信チェーンが個人利用者に対して、ワンクリック証拠アップロード、証拠確認、権利侵害の検査・測定、証拠調達、証拠保存などの機能を提供し、利用者の信頼できる証拠をアップロード、保存、ダウンロードするニーズを満たすことができた。同時に利用者の証拠保存と司法管理をリンクし、相互支援、相互検証を行い、多様な司法ニーズを満たすことができる。至信チェーンは著作権登録、データ監視と著作権侵害証拠保存などの機能があり、迅速な法執行を可能にしている。至信チェーンはオープンなエコシステムであるため、社会経済生活におけるスマート・コントラクト・テンプレートを完全かつ高速な開発が簡単となり、同時に匿名のプライバシーを保護し、個人プライバシー侵害を規制することができる。

至信チェーンはさらに、個人のクリエイターの知的財産を効果的に保護することができる。現時点、テンセント傘下の個人メディアプラットフォーム「ペンギン号」はすでに至信チェーンと接続し、毎日5万件以上の証拠情報を保存している。テンセントオリジナル館は、高品質なオリジナルアート作品を促進するためのデザインサイトであり、同じく至信チェーンと接続したばかりで、予定では年間20万件の個人私的財産データを保存し、創作者の知的財産権と利益の保護に大きく寄与するであろう。

4. 都市商業銀行為替手形プロジェクト
伝統的な金融事業として、為替手形はずっと企業の支払いと資金調達の重要なツールである。しかし銀行為替手形の分野では、紙の手形と手動での管理がずっと続いており、相対的に遅れている取引方法は、市場の運行効率を影響し、ある程度為替手形市場の発展を制限している。しかしブロックチェーン技術に基づく都市商業銀行の為替手形プロジェクトは、偽造防止、改ざん不可、非中央集権化、マルチノードデザインなどの特性があるため、共有、開放的、透明、信頼可能、検証可能なトレーサビリティシステムを構築でき、ブロックチェーンを通じて商業銀行は為替手形の発行、決済、裏書、払い戻し、取り消し、保管、支払い、流通などの業務情報を伝達できる。都市商業銀行為替手形プロジェクトは、ハイブリッド・ブロックチェーンという方式を採用し、大きなファイルの非中央集権的な分散型ストレージを実現し、契約書、領収書、映像データなどが為替手形情報と一緒にブロックチェーンに保存し、大きなファイルを保存する問題を効果的に解決できた。現時点、ブロックチェーン技術に基づく都市商業銀行為替手形プロジェクトはすでに48のノードを設立し、毎日200枚程度の為替手形を発行し、利用者の資産を活性化させ、利用範囲を拡大し、「ブロックチェーンで確認し、オフラインで決済」という革新的なビジネスモデルを実現し、利用者に便利をもたらし、効率を向上させ、更に手形市場のリスクを効果的に阻止できている。(以上の応用事例の出典:『テンセント・クラウドブロックチェーンTBaaS製品白書2019』)

中国の市場規模は大きく、政府の特別な支援もあり、現時点では人材が不足しており、基礎技術が完璧ではない。さらに一部の企業が誇大宣伝をするなどの問題はあるが、始めたばかりの「ブロックチェーン+応用」はすでに大きな勢いを持っており、その未来は明るく、世界の最前線になることはまちがいないだろう。

現時点の「ブロックチェーン+人々の生活における応用」プロジェクトの初歩段階はすでに完全に確立しており、ブロックチェーンはAI、ビッグデータと肩を並べて中国国家戦略新興産業になっている。「スマートシティ+スマートヘルスケア」、「AI+医療保険分析」、「都市と農村の住民の健康情報システム」、「スマート生活・デジタル政務クラウド・コンピューティングセンター」と「スマートコミュニティ総合サービス管理プラットフォーム」など様々なプラットフォームを既に構築している。これはすなわち、「ブロックチェーンと人々の生活と産業の組み合わせ」は、国内外の資本にとって、投資および業界における優勢を掴むための絶好なチャンスであることを意味している。

個人的見解としては、中国と外国の投資家は、機会を見逃さない方がいいだろうと思う。

※1:https://grici.or.jp/
※2:https://grici.or.jp/802
この評論は1月20日に執筆

(写真:アフロ)《SI》

関連記事