ソフトバンク、公開価格到達は本物か? 固唾を飲んで見守る市場

2019年9月1日 19:48

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 18年12月19日に東証1部に新規上場したソフトバンクは、1500円の公開価格に対して、終値が14.5%ものディスカウントととなる1282円を付け、市場関係者や投資家の、驚きと落胆を誘った。

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 初値をいくらに設定するかは、なるべく高額な初値を望む企業側と、その後の値上がり幅を確保するため極力安値を期待する投資家との間に思惑や利害の相違があり、なかなか難しい問題だ。

 色んな理屈を引っ張り出して妥当性を主張する傾向があるが、一般的に認められている方法として、EBITDA(税引き前利益+支払い利息+減価償却費)の認知度が高い。

 当時のEBITDAはNTTドコモとKDDIの場合、株価の20%程度であった。通信事業で競合する3大キャリアの一角であるソフトバンクは、業界平均の20%で計算すると1株1000円程度と見るのが一般的だった。

 もう一つの目安である予想株価収益率(PER)でも、NTTドコモが13倍強、KDDIが10倍強だったのに対して、ソフトバンクのそれは16倍弱だった。

 一般的な参考指数が2つともソフトバンクの公開価格に、「ずいぶん強気だ」と疑問を呈していた。

 だが、この指数は投資する際に投資家の背中を押すための、精神安定剤のようなものだ。安いと思えば購入し、高いと判断すれば見送るのが、自己責任を求められる投資家の立場だ。

 販売を担当する証券会社の立場は違う。会社規模に見合う程度の販売額をこなさなければ、「やる気がない」と見なされて次回のビジネスチャンスに乗り損ねるリスクがある。ソフトバンクの新規上場に際して、証券会社の”活躍”が報じられたのには、こうした背景がある。

 タイミングも悪かった。2018年は、10月にはトルコのサウジアラビア領事館で、記者殺害事件があったと報じられた。背後にいると噂されたサウジの黒幕は、ソフトバンクグループ(SBG)が設立した10兆円ファンドの強力なパートナーだった。

 12月6日には、大規模な通信障害が発生し、その後5日間で約1万件の解約が起きた。

 8月には米政府がファーウェイの製品を政府機関や関連企業で使用することを禁止し、徐々に締め付けを強化している時期にも当たった。ソフトバンクにとって不運だったのは、3大キャリアの中でファーウェイの機器への依存度が一番大きかったことだ。その後の対応次第で業績に大きな影響が出ることは自明のことと見られていた。

 これだけ悪材料が集中する中でのIPO(株式公開)である。性根の座っていない経営者なら、「延期」を口にしても不思議ではないが、ソフトバンクは予定通り実行した。

 そのソフトバンクが16日に初めて1500円の公開価格を突破(1501円)し、27日まで1500円台を維持した。公開価格に到達するまでに8カ月を要した計算になる。昨年12月の公開直後には、ソフトバンク社内で株価に触れることがタブーのようになっていたようだが、呪縛から逃れられたと考えるのは尚早だ。

 1500円はスタートである。今後更なる価格上昇が期待されるのはもちろんだし、公開時に示された「連結配当性向85%」という株主還元方針の実行が、注目される。公開価格で逆算すると配当利回りは約5%になる。4%前後のNTTドコモやKDDIを上回る配当を手にして、投資家が初めてホッとする時を迎えるのだろうか。(記事:矢牧滋夫・記事一覧を見る

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