高炉も考える時代 日本製鉄がAIで作業効率向上 第4次産業革命の入り口

2019年6月5日 20:39

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 日本の製鉄業界も岐路に立たされている。中国、韓国などが最新設備を揃えて世界の鉄鋼需要を制してきた。また中国の製鉄事業は、「造りすぎ」で世界の鉄鋼市場を荒らしてしまっていると言われてきた。中国鉄鋼大手2社が統合を発表するなど、米中貿易摩擦の影響も懸念される中、鉄鋼業界もあわただしい。

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 その中で、日本製鉄の室蘭製鉄所(北海道室蘭市)の大型改修が始まる。350億円を投じる高炉の「AI化」を2020年後半から始めるのだ。日本の製鉄業界の設備は老朽化が進んでおり、中国企業の急速な拡大に対応を迫られている。

このところの中国国内市場では、必要量の2倍が生産されていると言われてきた。そのため余った製品が世界市場に安く放出され、市場を混乱させている。また米中貿易摩擦が激化している中、世界の鉄鋼需要は低迷することも懸念されている。

 日本製鉄の室蘭製鉄所は、自動車向け特殊鋼などを生産する重要な生産拠点だ。自動車はハイテンなど質の高い製品を必要とするようになり、日本の高品質な鉄鋼生産技術を必要としている。しかし溶鉱炉(高炉)の運営には高い職人芸が必要とされており、経験豊かな作業員の減少も目立っている。

 近年、設備の老朽化と共に粗鋼生産量の減少がみられている。日本経済新聞によると、日本製鉄の粗鋼生産量は、2014年3月期に4567万トンであったのが、2019年3月期4100万トンに低下している。この原因が設備トラブルにあると言うのだ。それは老朽化だけでは説明できない要因があると思われている。

自動車産業が、薄く引っ張り強さの大きなハイテンを要求するようになり、設備や作業に負荷が高まっていると言うのだ。溶鉱炉の管理は経験による勘に頼るところが多く、ベテラン作業員の技術を継承することも難しくなっている。

 そのため、2018年4月からデータ分析、AI化を進める組織を作り、世界的視野で競争に生き残る手立てを進めているのだ。既に、中国や韓国はAI化で先行しているようで、これからの日本の方向性としては、AIの教師データの高い質で対抗する構えだ。

 溶鉱炉のAI化による工程管理から、自動車などの製品製造現場とのつながりを作れると、真の意味で「多種少量生産」が可能となり、日本経済の浮沈を左右する技術開発となるであろう。

トヨタが企画し推進するTNGAの終着点には、マテリアル管理として、鉄鋼生産システムがその主軸となるはずだ。工程の結合と工程間在庫の削減を求める方策が、資金効率を上げる方向性なのだ。トヨタは出来ることなら「1台分ずつ粗鋼生産がしたい」であろう。粗鋼生産は、第1次産業革命以来、現在でもロット生産であるからだ。これを何とかしないと「第4次産業革命」は完遂できないだろう。(記事:kenzoogata・記事一覧を見る

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