ソフトバンクグループ前3月期決算の一考察

2019年5月13日 10:48

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 フトバンクグループの前3月期決算は「80.5%増の営業増益:2兆3539億3100万円」と、過去最高の営業利益を計上した。この水準は前3月期に国内企業で初の30兆円超の売上高を記録した、トヨタ自動車の営業利益(2兆46755億4500万円)に肉薄する。

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 だが発表直後から、その決算の在り様に疑問視を呈する見方が浮上した。「ビジョン・ファンド」「デルタ・ファンド」などSVF事業(非上場の有力企業に出資するファンド事業)が牽引した営業利益の膨大化だったことに「?」は起因している。

 現状の主軸ファンドは、サウジアラビアなどと組んだ10兆円規模のビジョン・ファンド。投資先企業の企業価値を四半期ごとに評価し、値上がり分を営業利益に計上する。SVF事業の営業利益が通信事業(ソフトバンク)などグループの他の事業を全て上回り、全体の4割を占めるに至った。

 ちなみにビジョン・ファンドは組成から約2年で世界の82社に出資、ファンドの含み益は1兆円を超えている。決算発表の席上(公開ビデオを閲覧)孫正義CEOは「同規模の第2のビジョン・ファンド立ち上げ」を明らかにした。指摘されている「?」は、以下に収斂される。

 (1)実現不透明な含み益に経営の軸足を一段と強めることへの疑問。
 (2)負債規模に対する現金収入の少なさ。ムーディーズ・ジャパンでは「利払いと現金収入のバランスが課題」と公に発信している。

 確かに「(2)」は投資事業に主軸を置き続ける限り、常について回る問題点といえる。が、件のビデオを見る限り、説明会に集まった内外の代表メディアから「どう考えるか」という質問はなされていない。次の機会には是非、問いただして欲しい。

 対して「(1)」だが、発表のビデオを見ながら私は二つの事例を思い起こしていた。M&Aと投資事業は別物だが、ここにその事例を記しておきたい。孫氏の投資対象に対する「目利き力」である。

 一つは1995年の、パソコン時代黎明期の米国ヤフーへの出資である。孫氏自身がシリコンバレーに乗り込み、社員5人余りに過ぎなかったヤフーに200億円を投じた。本人から「企業価値をはじいた金額だった」と後に聞いた。「過剰」と評された。だがヤフーの企業価値は「パソコン時代本格化」の風を背景に、僅か数年で10兆円を突破した。

 96年には片腕と称された故井上雅博氏を代表にヤフー・ジャパンが立ち上げられた。周知の通り米国ヤフーはその後の「グーグルの登場への危機感の希薄さ」「ネットオークション大手:米国イーベイと煮詰まっていた合併の白紙化」「アイフォンで開かれたスマホ時代軽視」等々で、創業23年目に実質上その姿を消した。が、ヤフー・ジャパン設立に投下された資金に対する含み益は1300億円を超えている。

 一つは、やはり95年の米国カジノ大手:ラスベガス・サンズの前身企業(コンピューター展示会運営会社)の買収である。孫氏自身がラスベガスでCEOのシェルソン・アデルソン氏と執拗な1年越しの折衝の末、当時の米ドル8億ドルで買収した。アデルソン氏は8億ドルを元手に、カジノ業界の大手企業にのし上がっていった。

 こんな話もいま伝えられている。「IR法成立にはアデルソン氏の存在が大きい。彼はトランプ大統領と太いパイプを有している。2017年2月の日米首脳会談でトランプ氏は安倍首相にラスベガス・サンズの名前を出し、カジノ解禁を迫った。以降、IR法成立への速度が加速した。IR法成立に方向性が見えてきた時期アデルソン氏が来日、参画意向を表明した折に“孫とパートナーシップをとりたい”とも言及している」。

 孫氏を知る複数のアナリストから「ソフトバンクグループの投資事業決断の中軸には、孫氏がいる。孫氏は、時代の半歩先を見据えて投資先(ユニコーン企業:企業価値10億ドル以上の未公開会社)をセレクトしている。ビジョン・ファンドに滴滴出行(中国の配車アプリ企業)が含まれている点など、象徴的」とする。

 滴滴出行は確かにいまだ実現益計上には至っていない。だが次世代の動向/有力伸長企業を見抜く孫氏の目は、記したような過去の事例からも読み取れる。(記事:千葉明・記事一覧を見る

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