「自由にやって」といわれると、かえって行動できなくなる

2018年11月1日 20:26

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 私が企業支援をする際に、こんなことを言われることがあります。
 「制約はないので、思い通りに自由にやってください」

 こう言われたとき、私はとりあえずできる範囲で情報収集をし、自分の判断で課題やテーマを設定して支援に着手します。ただし、「自由にやって」といった経営者や担当者には、常にその内容を投げかけて考えを聞きます。
 その時、以前と同じように「ご自由にどうぞ」といわれることはほとんどなく、何らかの希望、要望、問題意識の違いや賛否が出てきます。それを調整しながら、依頼先の企業ができるだけ納得できる取り組み方を探します。
 「自由にやって」といわれるのは、依頼者が課題を整理しきれていないだけで、本当に自由にできるわけではありません。少なくとも、私の今までの経験ではそうだったので、「自由にやって」と言われたときの方が、かえっていろいろ気をつかいます。

 同じような話は、例えば企業での中核人材の中途採用などでもあります。経験豊富で期待している中途社員に、「制約を作らずいろいろなことに自由に取り組んでほしい」などと言います。たぶんそれは組織改革を期待した本心からの言葉で、その人が動きやすいように、やりやすいようにやってほしいという配慮です。

 ただ、「自由に」と言われた本人は、はっきり言って困るはずです。どこから手をつければよいのか、何を優先すべきなのか、状況を見ずに勝手に動けるわけではありません。組織の中にはいろいろな考えの人がいるので、「自由にやって」と思っている人ばかりではありません。
 結果として、行動はより慎重になり、動き始めるまでの時間もかかります。

 実は人間とは、テーマ、方針、要望、条件、その他何らかの枠組みや制約がある方が、行動はしやすくなります。「自由にやって」という言葉のように、裁量の範囲が広すぎると、かえって動きづらくなるのです。

 例えば建築家が「住みやすい家を自由に作って」と言われたり、スタイリストが「私に似合う服を自由に選んで」と言われたりしたら、相手の要望を聞き出すために、いろいろ話を聞くと思います。専門家として、自分の判断で「枠組み」「条件」を決めるためですが、結論にたどり着くには時間がかかりますし、結果が見当違いになる可能性もあります。

 ここでは、依頼者がどんなにわがままでも常識外れな内容でも、何か範囲を決める糸口を言ってくれた方が、対応は早くなります。制約があった方が選択肢は示しやすいですし、行動もしやすくなります。

 これは創作活動をする芸術家でも同じで、手法、期間、材料、費用、技術など、何らかの制約の中で活動をします。自分自身で枠組みを決めるということはありますが、何らかの決まった範囲の中で作品を生み出します。
 役者であれば脚本、台本の制約の中で、その人の個性を発揮します。

 「自由に」「好きなように」と言われるよりは、要望や条件があった方が、それに対して「こういう方法」「こちらの方が大事」「それは無理」「ここまでならできる」など、話が具体的に、しかも早く進みます。投げかけられた人は、その方が行動がしやすくなります。

 「自由にやって」という言葉が、実は相手の行動を鈍らせていることがあります。裁量と制約のバランスは、なかなか難しいですが、裁量が大きいほど良い訳ではないことは、よく考えておく必要があります。

 ※この記事は「会社と社員を円満につなげる人事の話」からの転載となります。元記事はこちら

著者プロフィール

小笠原 隆夫

小笠原 隆夫(おがさわら・たかお) ユニティ・サポート代表

ユニティ・サポート 代表・人事コンサルタント・経営士
BIP株式会社 取締役

IT企業にて開発SE・リーダー職を務めた後、同社内で新卒及び中途の採用活動、数次にわたる人事制度構築と運用、各種社内研修の企画と実施、その他人事関連業務全般、人事マネージャー職に従事する。2度のM&Aを経験し、人事部門責任者として人事関連制度や組織関連の統合実務と折衝を担当。2007年2月に「ユニティ・サポート」を設立し、同代表。

以降、人事コンサルタントとして、中堅・中小企業(数十名~1000名規模程度まで)を中心に、豊富な人事実務経験、管理者経験を元に、組織特性を見据えた人事制度策定、採用活動支援、人材開発施策、人事戦略作りやCHO(最高人事責任者)業務の支援など、人事や組織の課題解決・改善に向けたコンサルティングを様々な企業に対して実施中。パートナー、サポーターとして、クライアントと協働することを信条とする。

会社URL http://www.unity-support.com/index.html

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