日銀総裁続投の「異次元」人事【フィスコ・コラム】

2018年2月18日 09:30

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記事提供元:フィスコ


*09:30JST 日銀総裁続投の「異次元」人事【フィスコ・コラム】
4月8日に任期を迎える日銀の黒田東彦総裁が再任される見通しとなりました。「異次元緩和」の是非よりも、霞ヶ関による天下りポストの増強といった視点でとらえる方がしっくりくる気がします。

今回の日銀総裁人事に関する報道合戦は、対抗馬不在で以前から黒田氏の続投がささやかれていたせいか、盛り上がりを欠いていました。これまでは購読部数日本一の保守系新聞がスクープし、それを他のメディアが後追いするのが通常のパターンでしたが、今回は2月10日に大手メディアがいっせいに報じました。首相に近い筋が番記者との懇談(非公式の記者会見)で話し、各社が記事にしたのではないかと推測します。

日銀総裁は霞ヶ関の重要な天下りポストで、長年、日銀出身者と大蔵・財務省を退官した元幹部による「たすき掛け」で決められてきた経緯があります。その後、1998年の法改正で中銀の独立性の観点からこうした慣行を廃止し、速水優、福井俊彦、白川方明と3代続けて日銀出身者が務めました。しかし、今も同省の有力OBや人事スペシャリストが中心になって人事案を固め、永田町が追認しているのが実態ではないでしょうか。

黒田氏の1期目の功績として、株価の上昇が真っ先に挙げられます。足元では日経平均株価が26年ぶりの水準を回復し、株式市場では3万円台回復に胸を踊らせています。確かに2014年10月のいわゆる「ハロウィーン緩和」などの奏功により、安倍政権が目論む円安・株高は実現しました。ただ、黒田日銀の柱の1つであるETF買いは、本来は禁じ手であり、長期にわたり市場を歪める危険性が再三指摘されています。

それでも、緩和政策の継続が期待されるのかもしれません。金融政策決定会合では緩和的な金融政策の維持に対する反対意見は「緩和解除」ではなく「一段の緩和」で、アクセルしかないクルマに乗ってどこまで突っ走れるか、という実験のようです。ところが最近は、黒田氏が政策の前提となる物価上昇目標の達成に自信を示すほど円買いに振れています。

ところで、1月下旬から2月にかけての株式市場では、NYダウが1000ドル安となれば翌日の日経平均は1000円安、NYダウが500ドル高となれば日経平均も500円高とアメリカの取引を忠実に再現するような場面がみられました。日米が同様の動きとなるのは、両国間の貿易量が多いからなど諸説ありますが、東京の株式ディーラーから「米株が上がったから今日は買い」と自主性を疑いたくなる発言が聞かれるのも事実です。

口の悪い旧知の邦銀関係者は「日本は株価も為替も、アメリカに決めてもらっている」と自虐的に話しています。だとすれば、足元の記録的な日本株高は「異次元緩和」の成果などではなく米国株の連れ高にすぎないことになります。さらに日銀金融政策決定会合が連邦公開市場委員会(FOMC)の直後に開かれる日程を考えると、金融政策までアメリカの指示を仰いでいると思われても仕方ありません。

黒田氏続投については、出身母体である財務省が積極的に後押ししたと報じられています。アメリカの連邦準備制度理事会(FRB)のジャネット・イエレン議長は2月3日、歴代では珍しく1期(4年)で退任しました。それとは対照的な日銀総裁再任は、アメリカに依存する金融市場とOB人事差配で省益を優先する霞ヶ関との利害一致が背景にある、と言えそうです。《SK》

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