独リリウムが資金9千万ドル調達、空飛ぶ電動タクシー実用化は第2段階へ

2017年9月10日 17:31

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「リリウム・ジェット」(写真:リリウム発表資料より)

「リリウム・ジェット」(写真:リリウム発表資料より)[写真拡大]

  • 運用のイメージ図(写真:リリウム発表資料より)

 空飛ぶ電動タクシー「Lilium Jett(リリウム・ジェット)」の実用化を目指すドイツのスタートアップ、Lilium(リリウム)が第2段階の資金調達として9,000万ドルを調達した。4月に電動ジェットエンジンを搭載した2人乗りの実物大プロトタイプを使い、垂直離着陸から水平飛行に移行する世界初の飛行に成功。2019年には5人乗り商用機での有人初飛行を計画する。

【こちらも】垂直離着陸でき完全電動の空飛ぶタクシー、プロトタイプが初のテスト飛行成功

 資金調達先は中国IT大手のテンセントなどである。電動式の垂直離着陸が、新たな空の移動手段を提供することへの期待だ。滑走路が不要なため、交通インフラが不十分な発展途上地域から、渋滞の蔓延している先進国まで、少人数の移動に飛行という選択肢が加わる。また、リリウムの電動ジェットエンジンは、エネルギー効率が高く、低雑音で排ガスもないため、環境にやさしい実質的な交通手段とアピールしている。

 リリウム・ジェットは、1回の充電で1時間飛行。飛行速度は自動車やヘリコプターを上回る最高時速300キロメートルであるという。

●新しい空のモビリティ市場

 欧米では次世代の移動手段として、新しい空のモビリティ投資が活況である。一昔前の映画やSF小説で登場した空飛ぶ自動車の実現である。キティ・ホークの水上電動飛行機、エアロモービルの空飛ぶ自動車、リリウムの空飛ぶタクシーなどのベンチャーに加えて、大手のエアバスやウーバーも市場参入を目論む。

 方式は、滑走路を必要とするタイプとオスプレイのように滑走路を必要としないタイプだ。

 厳しい航空規制に沿った既存のインフラのなかで、空飛ぶ車を実用化するための具体的な方策も、ドローンと同じように後追いで形成されていくのであろうか。

●リリウム・ジェットの構成

 リリウム・ジェットの写真を見てほしい。それは、尾翼のない機体である。奇妙にみえるが、電動式の垂直離着陸の自動車を実現するには、可能な限り軽量化する思想に基づく。機体を構成する素材は、カスタムの炭素繊維であり、世界で最も軽く強い素材を使用していくという。

 飛行はシームレスな動きだ。12枚のフラップを備えた堅牢な翼体は、それぞれに3つの電気ジェットエンジンを搭載。飛行モードに応じて、フラップは垂直から水平位置に傾く。離陸時には、全てのフラップが垂直に傾き、機体を持ち上げる。 上昇すると、フラップは徐々に水平位置に傾き、機体を加速する。完全な水平位置に達すると、通常の飛行機のように動作する。

 電気ジェットエンジンは、空気を吸い込み、圧縮して後ろに押し出すという旅客機のジェットエンジンと同じ仕組みである。ところが、圧縮機のファンはガスタービンによって回転するのではなく、高性能の電動モータによって回転するため、静かで排ガスがないのが訴求点である。

 安全目標を達成するために、超冗長性を採用しているという。リリウム・ジェットは、小型の独立した多数の電気ジェットエンジンを実装する。一つの電気ジェットエンジンの故障が機体の安全性や安定性に影響を与えないように設計されている。

●空飛ぶ自動車(リリウム・ジェット)のテクノロジー

 実用化されれば、新たな交通インフラの創造となる。アプリでリリウム・ジェットを呼び出し、パイロットが操縦するリリウム・ジェットがやって来て乗客を乗せるといったイメージであり、2025年の実用化を目指す。そのためには、どこでも離着陸できる必要がある。機体の垂直離着陸を念頭に置いた、安全設計、軽量設計、低騒音設計を追及したテクノロジーだ。

 走行スピードは、時速300キロメートルで十分であろう。法的整備や充電、走行可能な時間(1時間)の課題はあるものの、新たな移動手段になる日は近いのであろう。(記事:小池豊・記事一覧を見る

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