量研/QST、採血不要の血糖値センサーを開発 糖尿病患者の負担低減

2017年8月23日 07:30

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血糖値センサー概観と指定・実測の血糖値(写真: 量子科学技術研究開発機構の発表資料より)

血糖値センサー概観と指定・実測の血糖値(写真: 量子科学技術研究開発機構の発表資料より)[写真拡大]

 量子科学技術研究開発機構(量研/QST)の第1号ベンチャーとなる「ライトタッチテクノロジー株式会社」が誕生した。病院から一般家庭まで広く普及できる小型の非侵襲血糖値センサーを事業展開し、糖尿病患者の身体的・精神的負担を軽減するという。

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●糖尿病の実態

 2015年の国際糖尿病連合の報告によれば、日本国内で720万人、世界で4億1,500万人が糖尿病患者である。さらに、2035年には世界で5億9,190万人、10人に1人は糖尿病という時代が訪れるという。

 糖尿病とは、膵臓から分泌されるインスリンというホルモンの量や作用が低下し、血液中のブドウ糖の濃度が高くなる病気である。

 糖尿病患者は、採血型自己血糖値センサーで、1日数回血糖値を測定しなければならない。現在の血糖測定法は、指などを針で刺して採取した血液を測定するため、患者は煩わしさとともに苦痛や精神的ストレス、更に感染症の危険を伴うなど、多くの問題を抱えている。加えて、穿刺針やセンサーチップ等の消耗品のコストが高く、年間約20万円の経済的負担を強いられる。
 
 非侵襲で血糖値を測定する技術開発は、20年以上にわたって行われているが、製品化に成功したものはないという。

●非侵襲血糖測定技術

 採血なしに血糖値を測定する技術には、中赤外領域を用いる。特定の物質のみに選択的に光エネルギーを吸収させることができるため、比較的容易にグルコースの吸収を計測できるという。しかし、従来光源は、中赤外領域での輝度が極端に低く、血糖測定に必要とされる十分な精度が得られない。今回、固体レーザーの最先端技術と光パラメトリック発振技術(OPO)を融合することにより、世界で初めて手のひらサイズの高輝度中赤外レーザーの開発に成功し、一定の条件の下、国際標準化機構(ISO)が定める測定精度を満たす非侵襲血糖測定技術を初めて確立した。測定精度は、

 ・血糖値75mg/dl未満では±15mg/dl以内であること
 ・血糖値75mg/dl以上では±20%以内に測定値の95%以上が入っていること

 今後、大学病院等で糖尿病患者を含めた臨床研究を実施し、POC(Proof of Concept)取得を目指す。このPOC取得により、ヘルスケア、医療機器メーカーとの協業を進め、治験、薬機法承認を経て、病院から一般家庭まで広く普及できる小型の非侵襲血糖値センサーを事業展開させることで、糖尿病患者のQOL(Quality of Life)向上が期待できる。
 

●世界初、非侵襲血糖測定センサーのテクノロジー

 光パラメトリック発振技術の共振器ミラーの反射率を最適化することにより、共振器長を大幅に短縮すると共に、OPOの波長変換効率を従来に比べて1桁向上することに成功。また、大きさも手のひらサイズに収まった。この技術を用いることにより、指に針を刺して採血することが不要になるのはもちろんのこと、タイムラグも生じないため、キャリブレーションも不要となるという。

 一日も早い、糖尿病患者の身体的・精神的な負担低減が望まれる。(記事:小池豊・記事一覧を見る

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