イグニス Research Memo(3):17年9月期上期は積極的な事業投資が利益を圧迫したが想定通りの進捗

2017年6月26日 16:53

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記事提供元:フィスコ


*16:53JST イグニス Research Memo(3):17年9月期上期は積極的な事業投資が利益を圧迫したが想定通りの進捗
■決算動向

1. 2017年9月上期決算の概要
イグニス<3689>の2017年9月期第2四半期累計期間の業績は、売上高が前年同期比8.3%増2828百万円、営業利益が同76.8%減の195百万円、経常利益が同78.0%減の184百万円、親会社株主に帰属する四半期純利益が同89.7%減の91百万円と増収ながら減益となった。ただ、想定通りの進捗とみられる。

売上高は、オンラインの婚活サービス「with」(コミュニティ)の大幅な伸びが増収に寄与した。一方、「ぼくとドラゴン」(ネイティブゲーム)も特殊要因により前年同期に比べて縮小したものの、実態としては安定運営により好調に推移している。また、その他(メディア等)が小規模ながら伸びているのは、ビジネス情報メディア「U-NOTE」等によるものである。

一方、利益面では、積極的な事業投資により先行費用が増加したことで大幅な営業減益となった。新プロダクト開発や新規事業の開発に伴う研究開発費(前年同期比196百万円増)のほか、「with」を中心とした広告宣伝費の増加(同358百万円増)等が利益を圧迫した。もっとも、今期は新規投資に合計15億円を目安としており、想定内の動きとみてよいだろう。特に、研究開発費は、ネイティブゲーム(新タイトル)やVR関連などが中心となっているようだ。

財政状態については、総資産が「現金及び預金」や「営業貸付金」、「投資その他」の増加により5,827百万円(前期末比34.5%増)に増加したが、自己資本も新株予約権※が行使された(約18億円の資金調達)ことにより4,172百万円(前期末比71.6%増)に拡大したことから、自己資本比率は71.6%(前期末は56.1%)に大きく改善している。したがって、資本増強を図りながら、成長に向けた事業投資及び手元資金を確保したと評価できる。なお、「営業貸付金」の増加(前期末比571百万円増)についても、事業投資としての側面が強いもののようだ。

※2016年6月2日に発行した第8回新株予約権(行使価格3,600円、交付株式数155,000株)、及び第9回新株予約権(行使価格5,900円、交付株式数217,000株)が2016年11月までにすべて行使されたことにより、合計1,838百万円の資金調達となった。


2. 事業別の業績及び活動実績
コミュニティの売上高(累計)は、前年同期比841.9%増の336百万円と大きく拡大した。前期の第4四半期から本格的に立ち上がってきたオンラインの婚活サービス「with」が、心理学及び統計学的アプローチによる差別化や積極的なプロモーション展開※1、ユーザー獲得に向けた機能強化※2等により、第2四半期だけでみても200百万円(前四半期比47.4%増)と順調に伸びてきた。国内SNSランキング(for iPhone)でも10位台に定着している。

※1 SNS内や街頭ビジョンなど、幅広くプロモーション活動を展開。
※2 2017年1月より、心理学を活用した最適なマッチングを実現する新機能「超性格分析」を実装。


ネイティブゲームの売上高(累計)は、前年同期比4.6%減の2,299百万円と減収となったが、消費税にかかる特殊要因※を考慮すれば実質的には好調に推移したと言える。第2四半期だけでみると1,131百万円(前四半期比3.2%減)と若干減収となったが、安定運営により高い水準での業績を維持していると評価して良いであろう。新タイトル「GK(コードネーム)」についてはリリースに向けて開発を進めているようだ。なお、2017年4月にはカジュアルゲーム「LINE 大富豪」をリリースした。「LINE GAME」上で展開したものであり、プロモーションコストを抑えた形でマネタイズ(広告モデル)を追求するところに狙いがあると考えられる。

※決算上は前年同期比で111 百万円の減収となっているが、今期よりネイティブゲームを手掛ける子会社が消費税の課税事業者となったことが影響している。したがって、その分を差し引けば、実態としては前年同期比で増収となっているようだ。


その他(メディア等)の売上高(累計)も、前年同期比17.5%増の192百万円と小規模ながら伸長した。ビジネス情報メディア「U-NOTE」及び2017年1月から開始した転職メディア「U-NOTE.CAREER」によるものである。ただ、第2四半期だけでみると80百万円(前四半期比28.1%減)と縮小しているのは、「U-NOTE.CAREER」の立ち上げにリソースを振り向けた結果、一時的に運営効率の低下を招いたことが要因であるが、足元では軌道に戻ってきたようだ。

3. 新規事業の進捗
VRは、2016年11月に新会社パルスを設立すると、2016年12月には順天堂大学教授(堀江氏、川戸氏)とのVR技術応用(認知症の防止・進行遅延効果の研究をVRコンテンツ開発に活用)に関する共同開発を開始した。また、他にも複数のVRプロジェクトが進行中である。

2017年5月にはVRを活用したソーシャルルームアプリを提供するクラスター(株)と業務提携を結んだ。クラスターは、誰もがVR空間上でルームを作って動画視聴やイベント参加、ライブ体験を共有して楽しむことができるソーシャルルームアプリ「Cluster.」(2017年5月に正式版リリース)を運営している。パルスでは今後、VR領域で様々なユーザー体験(コンテンツ)を提供していく考えであり、その提供の場として、クラスター社の展開するサービスを最大限活用することを目的としている。ただ、具体的なVRプロジェクトについては、複数を進行しているものの、日本におけるVRの市場規模やVRデバイスの普及率・進化を鑑みて、長期的な視点でプロジェクトを進めていく方針である(他のVRプロジェクトも同様)。

ライフハックは、カーテン自動開閉機「めざましカーテン mornin’」の販売好調により、累計の販売個数は20,000個を突破した。大手家電量販店など実店舗での販売が拡大しているようだ。また、持ち分法による損益では0.7百万円程度の投資利益(営業外収益)を計上しているが、まだ本格的な収益貢献の規模には至っていない。もっとも、「mornin’」によるブランディング強化を図ることで、次のプロダクトにつなげていく戦略については狙いどおりに進展していると言える。

4.四半期業績推移
四半期業績推移を見ると、中・大規模アプリへの転換期となった2015年9月期第1四半期から第2四半期にかけて売上高は大きく落ち込んだが、第3四半期からは「ぼくとドラゴン」(ネイティブゲーム)が同社の業績の伸びをけん引する形でV字回復を実現し、2016年9月期の第4四半期には過去最高の売上高(四半期ベース)を更新した。2017年9月期に入っても、消費税にかかる特殊要因の影響を除くと、「ぼくとドラゴン」の安定運営や「with」(コミュニティ)の伸びにより好調に推移している。

利益面では、2015年9月期の第3四半期以降、「ぼくとドラゴン」にかかる広告宣伝費及びプラットフォーム手数料が大きく増加している。これらは売上拡大に連動した費用として捉えるのが妥当である。なお、2016年9月期の第3四半期以降、本格的なテレビCMは当面見送りとしたものの、「ぼくとドラゴン」を中心とした既存事業のステップアップの時期と位置づけ、ネットを中心とした重点的な広告展開を実施。さらには、2017年9月期に入ってからも、積極的な事業投資を行う方針のもと、「with」の広告宣伝費や新規事業にかかる研究開発費の増加などにより、先行費用は高い水準で推移しており、利益の引き下げ要因となっている。

(執筆:フィスコ客員アナリスト 柴田 郁夫)《TN》

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