【柔道】全日本選手権展望 100キロ超級代表・2人目枠の行方は?

2017年4月28日 11:34

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 柔道日本一の座をかけて無差別で争われる全日本柔道選手権大会が29日、日本武道館で行われる。なお、この大会は8月28日~9月3日にかけて行われる世界柔道選手権大会(ハンガリー・ブダペスト)の100キロ超級代表選考会も兼ねている。

 ここでは同大会の勝ち上がりの行方と、代表選考の行方に関する展望を書いていく。

■ルールはどうなる?


 罰則などについては、今年4月1日から適用されている国際柔道連盟試合審判規定の規定通りとなる。

 昨年までは試合終了後技によるポイント・指導の差がなかった場合には旗判定が行われていたが、これが廃止されて本戦終了後技によるポイントがない場合には時間無制限となるゴールデンスコア(GS)方式の延長戦が行われる。

 これにともなって、試合時間は6分から5分に短縮される。

 また、新しい試合審判規定では技のポイントで「有効」が廃止されて「技あり」と「一本」のみ、技あり2つによる「合わせ技一本」も廃止となっているが、女子の全日本と同様、技のポイントは「有効」、「技あり」、「一本」の3つ、「合わせ技一本」も存続する。

 これまでは審判員は男性のみだったが、17年からは女性審判員が参加することとなり、男性12名、女性3名の審判員が登用される。

■大会の見どころ


●連覇はなるか?


 リオ五輪の代表選考会を兼ねて行われた昨年度の全日本選手権。2年連続世界選手権銀の七戸龍(九州電力)と、一昨年優勝、リオ五輪100キロ超級銀の原沢久喜(日本中央競馬会)の優勝争いと見られたが、両者とも動きにキレがなく準決勝で敗退した。

 優勝したのは、原沢と同学年の王子谷剛志(旭化成)。

 一昨年のグランドスラム(GDS)東京で勝てなかったことで選考レースからは脱落したものの、全日本では意地を見せて2014年以来2度目の優勝を果たした。

 今年もその王子谷を中心に優勝争いが展開するものと見られる。

●初出場の選手は?


 今年度全日本選手権は九州地区代表の松雪直斗(福岡県警察)の他、11名が初出場組。

 この中で注目したいのは、全国高等学校柔道選手権大会男子個人無差別級優勝の松村颯祐(開星高校)。松村は180センチ、140キロの堂々とした体躯。高校生ながら中国選手権を勝ち上がり、堂々の優勝を果たして出場権を獲得した。

 高校生の出場は2014年の香川大吾(崇徳高校)、田中源大(高川学園高校)以来、3年ぶり8人目。1回戦を勝ち抜けば、2回戦でリオ五輪73キロ級金メダルの大野将平(旭化成)と対戦することとなる。

 大学生や社会人の選手と比べて、体力面で不利になりやすい点は否めないが、はつらつとした戦いぶりを見せてくれることを期待したい。

■全日本選手権の展望


 ここからはA~Dブロックごとに見ていく。

●Aブロック


 Aブロックには昨年優勝の王子谷が入った。準々決勝までの対戦相手に難敵がいないことから、準々決勝までは順当に勝ち上がってくると予想される。

 反対の山には100キロ級の強化選手でもある下和田翔平(京葉ガス)がいる。順当に行けば、影野裕和(愛媛県警)と奥嶋聡(山口県警)の勝者と準々決勝進出をかけて争うこととなる。

 各選手の地力を考えると、準々決勝は王子谷-下和田の対戦となるだろう。両者とも好選手だがスタミナの差などを考えると王子谷に分があり、王子谷が順当に準決勝まで勝ち進むものと見られる。

●Bブロック


 Bブロックには昨年3位で、14年、15年の世界選手権連続銀メダルの七戸が入った。七戸は初戦で2年ぶりの出場となる香川と対戦。

 ここを乗り越えると81キロ級の強化選手でもある丸山剛毅(パーク24)との対戦が予想されるが、地力の差から考えると問題なく準々決勝まで勝ち上がってくると見られる。

 反対側の山には全日本で7度優勝している小川直也(現在、プロレスラー)の長男、小川雄勢(明治大学)と垣田恭兵(旭化成)が入っている。順当に勝ち上がると両者は3回戦で対戦する。

 垣田は13年大会で3位に入賞している好選手だが、左半身から奥襟をつかみ圧力をかける小川に分がある。

 ここから考えると昨年の準々決勝と同じく、七戸-小川の対戦が予想される。小川は大学生で成長著しい好選手だが、まだ七戸の牙城を崩すまでは至らず、七戸が準決勝に進出すると予想される。

●Cブロック


 Cブロックには昨年準優勝、12年ロンドン五輪100キロ超級代表の上川大樹(京葉ガス)が入った。上川が入った山も準々決勝までは難敵がいないことから、準々決勝までは比較的楽に勝ち進んでいくことが予想される。

 反対側の山には、今年の世界選手権100キロ級代表のウルフアロン(東海大学)とリオ五輪73キロ級金メダルの大野将平(旭化成)が入った。両者は3回戦で対戦する可能性がある。

 非常に楽しみな対戦だが普段より大きな選手を相手にする疲労感も考慮すると、ウルフが準々決勝に上がってくる可能性が高い。

 準々決勝は上川-ウルフの対戦。準々決勝で対戦が予想される4試合の中では最も予想が難しい試合となる。

 過去の実績では圧倒的に上川の方が上だが、今大会からはGS方式の延長戦が導入される。ここ最近はスタミナを浪費して息切れする傾向も見られ、スタミナ切れを起こすと番狂わせが起こる可能性もある。

 しかし、ここ一番での足技のキレで上川が準決勝に進出するものと見られる。

●Dブロック


 Dブロックには昨年3位、リオ五輪銀メダルの原沢が入った。順当に勝ち進むと3回戦で百瀬優(旭化成)との対戦が予想される。両者の地力の差を考慮すると原沢に分があり、原沢が準々決勝に勝ち上がる可能性が高い。

 反対側の山には後藤隆太郎(三井物産)と12年全日本優勝の加藤博剛(千葉県警)が入った。両者は順当に勝ち進むと3回戦での対戦が予想される。後藤は100キロ級の好選手だが、加藤は寝技の巧い選手。ベテランの妙技を発揮して加藤が準々決勝に進出すると見られる。

 準々決勝は原沢-加藤。

 加藤は寝技の巧い選手で、各選手とも寝技には警戒している。原沢との試合でも極力付き合わないようにして戦う試合展開が予想される。しかし、原沢は191センチの長身で、上から奥襟をつかまれるとさすがの加藤もスタミナを浪費するだろう。

 そういう点を考えると、原沢が問題なく準決勝に進出すると予想する。

●準決勝・決勝の展望


 準決勝の対戦予想は以下の2試合。

 第1試合 王子谷-七戸
 第2試合 上川-原沢

 両カードとも昨年の準決勝と同じカード。昨年は王子谷と上川が決勝に進出、王子谷が優勝している。

 まず第1試合は王子谷の方がやや有利と予想する。王子谷はやや攻めが遅い傾向があり、指導の差で敗戦する傾向があった。しかし、昨年の全日本では積極的に攻めて14年以来2度目の優勝を果たした。

 その後も勢いは止まらず、GDSチュメニで3位、講道館杯、グランドスラム(GDS)東京、パリ、選抜と連続優勝を果たしている。

 七戸も東京では3位、パリでは王子谷に反則負けで敗れて2位。外国人には敗れていないものの、国内では講道館杯で3回戦、選抜では初戦で太田彪雅(東海大学)に反則負けで敗退とやや精彩を欠いている。

 技術や力量の差は小さいものの、昨年全日本後の勢いの差から考えても王子谷が決勝進出すると予想。

 続く第2試合は原沢の方がやや有利と予想する。昨年はオリンピック選考会の重圧もあってか、やや原沢の動きが重く旗判定(3-0)で上川が決勝に進出した。

 原沢はリオ五輪以降GDS東京に選出されたものの、左ふくらはぎの怪我により欠場。グランプリ(GP)・デュッセルドルフが復帰戦となった。決勝で影浦心(東海大学)に大内刈を返され敗れたものの2位。外国人への強さを見せた。

 しかし、選抜では準決勝で影浦に内股をすかされて技有りを取られて敗れており、不用意な技を返されて敗れるケースが目立っている。

 上川は講道館杯で5位、選抜でも初戦で影浦に小外刈で一本負けするなど精彩を欠いている。

 こういった点を考慮すると、原沢が初優勝した15年以来の決勝進出を果たす可能性が高い。

 決勝は王子谷-原沢。

 日本重量級の最高峰同士の決勝となる。両者は同級生で、これまでの対戦成績は王子谷が6勝3敗2分けとリード。両者とも右組みで、原沢は奥襟を持っての内股、王子谷は大外刈、支釣込足を得意としている。

 今大会からはGS方式の延長戦が採用されることもあり、本戦の5分間では決着がつかないことも考えられる。両者ともスタミナには問題がないと思われるが、ここ最近の試合内容の差から考えると王子谷がやや有利。

 王子谷が2年連続3度目の優勝を達成すると予想する。

■世界選手権代表選考の行方は?


 世界選手権代表は7階級最大9名が選考される。世界選手権代表はすでに60キロ級ですでに2名選出。90キロ級に新しい選手が選考された場合はあと1階級、派遣見送りとなった場合はあと2階級で2人目が選出できることになる。

 90キロ級は代表候補として選出されていたベイカー茉秋(日本中央競馬会)が選抜体重別の初戦で右肩を負傷、先月手術を行った。復帰までは約8カ月~1年かかると見られる。

 全日本男子の井上康生監督は会見で「90キロ級はベイカーが出場できない場合、派遣見送りの可能性もある」と語っており、2月の国際大会でも優勝者が出ていないことからこのまま派遣見送りとなる公算が強い。

 強化委員会では100キロ超級の代表が選出された後、任意選出の2人目と男子団体戦代表が選出される。

 100キロ超級の代表候補は以下の4人。

 原沢久喜(IJFランク2位) GPデュッセルドルフ2位、選抜体重別3位
 王子谷剛志(同5位) 講道館杯優勝、GDS東京優勝、GDSパリ優勝、選抜体重別優勝
 影浦心(同15位) 講道館杯3位、GS東京2位、GPデュッセルドルフ優勝、選抜体重別2位
 七戸龍(同19位) GDS東京3位、GDSパリ2位

 このうち影浦は東京予選で敗退したため、全日本選手権には出場しない。

 王子谷を除く3選手とも日本人選手には敗戦しているものの、外国人選手には敗戦しておらず、どの選手が出てもメダルが十分に期待できる。このことから考えると、全日本選手権で上位の選手の中から選出される可能性が高い。

 ただ、七戸は国内大会でやや精彩を欠く試合が続いていることから、全日本はよほどいい内容で優勝しないと選出は厳しいとみられ、事実上王子谷と原沢の一騎打ちと見て間違いないだろう。

 続いて、任意選出の2人目を考えてみたい。90キロ級は現時点でどのようになるか未定だが、派遣見送りになったと仮定して予想する。

 2人目はすでに2名選出済みの60キロ級以外から選ばれる。各階級若手の選手で有望株がいるものの、選抜体重別や各種国際大会の成績を考慮すると、66キロ級、100キロ級、100キロ超級から選ばれる可能性が強い。

 66キロ級は磯田範仁(国士舘大学)。講道館杯で優勝。GDS東京では5位と不本意な結果だったものの、GDSパリでは見事に優勝。選抜では初戦敗退。成績にやや波があるのが気がかりだが、ここ最近急成長している選手だ。

 100キロ級は羽賀龍之介(旭化成)。15年の世界選手権(アスタナ)優勝、リオ五輪銅メダル。その後は怪我もあり選抜体重別で復帰。決勝では東海大の後輩となるウルフと対戦。12分以上の熱戦ながら最後は指導を取られて敗戦。ウルフに代表の座を譲った。

 この2人に100キロ超級の選手が加わって、2人目の代表選手が決定されるものと見られる。

 磯田は昨年から今年にかけて伸びてきた若手有望株だが、代表となるにはまだ実績の点で弱い。これまでの実績やメダル獲得の可能性を考慮すると、羽賀と100キロ超級のいずれかが2人目に選ばれると予想する。(記事:夏目玲奈・記事一覧を見る

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