糖分を細胞内に輸送する膜たんぱく質の立体構造と動きを解明―京大・野村紀通氏ら

2015年10月4日 20:11

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基質輸送に伴うGLUT5の構造変化モデルを示す図(京都大学の発表資料より)

基質輸送に伴うGLUT5の構造変化モデルを示す図(京都大学の発表資料より)[写真拡大]

 京都大学医学研究科の野村紀通助教、岩田想教授らによる研究チームは1日、これまで解析が困難だった、ヒト・哺乳類において細胞内に果糖を選択的に輸送するGLUT5(グルットファイブ)という「膜たんぱく質」の立体構造の解析に成功したと発表した。膜たんぱく質は肥満や糖尿病だけでなく、がんの細胞増殖制御にも関与していることから、今後、肥満や生活習慣病の予防・治療薬やがん細胞のマーカーなどの開発につながることが期待されるという。

 清涼飲料水や菓子類、加工食品、ファーストフード、化学調味料などに多く含まれる果糖(フルクトース)の過剰摂取は、肥満・メタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)や脂肪肝など多くの生活習慣病につながる隠れた危険因子として、世界で研究が行なわれている。

 しかし、生体内に果糖を取り込む際の関門になっているGLUT5という膜たんぱく質の立体構造の解明には、どの研究チームも成功していなかった。そうした中で、本研究グループは5年前に、独自技術の開発により、GLUT5の結晶化およびX線構造解析に成功した。

 今回の研究では、ヒトのGLUT5とよく似ているラットのGLUT5を結晶化することに成功し、その立体構造を原子レベルで解明したところ、得られた立体構造は、GLUT5が外開きの状態であり、細胞の外からの果糖の流入・結合を待ち受けている構造だった。また、ウシのGLUT5を結晶化し、立体構造を解明することにも成功し、その結果、立体構造は内開きの状態で、GLUT5が細胞内に果糖を放出して輸送を終えた瞬間の構造だった。

 さらに、これらの立体構造を比較したところ、GLUT5を構成する2つの大きな部位が開閉するだけでなく、それらの部位の内部でも局所的な構造変化が起こることで、一度結合した果糖を細胞外に逃さずに効率良く細胞内に送り込むためのゲートが形成されることが明らかになった。

  今回、GLUT5において果糖が結合する部位の立体構造情報と、果糖を輸送する仕組みが明らかになったことで、今後はGLUT5の輸送活性を阻害・調節などができる薬剤の探索や分子設計、肥満や生活習慣病の予防、治療薬やがん細胞のマーカーなどの開発などにつながることが期待されるという。

 今回の研究開発は、ストックホルム大学との国際共同研究チームで行ったもので、JST 戦略的創造研究推進事業による支援を受けている。研究成果は、9月30日(英国時間)に英国科学誌「Nature」のオンライン速報版で公開された。論文タイトルは「Structure and mechanism of the mammalian fructose transporter GLUT5」(哺乳類の果糖輸送体GLUT5の構造と分子機構)。(記事:町田光・記事一覧を見る

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