理研など、神経回路構築を制御する脂質を発見

2015年8月30日 19:50

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切断した脊髄の模式図で、図の上が背側で下が腹側。後根を通る痛覚神経突起(緑色)と固有感覚神経突起(青色)は、脊髄へ入ると分別される。痛覚神経突起は脊髄の外側部(後根進入部)を長軸方向に走行し、固有感覚神経突起は背側部(後索)を長軸方向に走行する。(理化学研究所の発表資料より)

切断した脊髄の模式図で、図の上が背側で下が腹側。後根を通る痛覚神経突起(緑色)と固有感覚神経突起(青色)は、脊髄へ入ると分別される。痛覚神経突起は脊髄の外側部(後根進入部)を長軸方向に走行し、固有感覚神経突起は背側部(後索)を長軸方向に走行する。(理化学研究所の発表資料より)[写真拡大]

 理化学研究所の上口裕之チームリーダー・平林義雄チームリーダーらの共同研究グループは、異なる種類の感覚を伝える神経突起を分別してその行き先を制御する新たな脂質を発見した。

 私たちが持つ感覚を伝える神経細胞の突起(神経突起)は、後根と呼ばれる束を作っているが、脊髄へ入るとそれぞれの神経突起は分別されて、異なる部位を通るようになる。このように異なる感覚を担う神経突起が分別されて、混線することなくそれぞれの目的地へ投射することで、私たちはそれぞれの感覚の違いを認識することができている。しかし、これまでの研究で、この神経突起の分別を行うタンパク質などは発見されていなかった。

 今回の研究では、脊髄を構成する神経細胞以外の細胞(グリア細胞)がホスファチジルグルコシド(PtdGlc)という脂質を産生し、PtdGlcの代謝産物で水溶性の脂質リゾホスファチジルグルコシド(LysoPtdGlc)を細胞外へ放出することを発見した。

 カバーガラス上に培養した感覚神経細胞から伸びる神経突起の先端部の片側にLysoPtdGlcの濃度勾配を作製し、LysoPtdGlcによる神経突起の反発を観察したところ、LysoPtdGlcは痛覚神経突起を反発したが固有感覚神経突起の伸長方向には影響を及ぼさないことがわかった。

 また、生体内でのLysoPtdGlcの働きを検証するため、ADLib法という抗体作製技術でLysoPtdGlcの機能を阻害する抗体を作製し、この抗体をニワトリ胚の脊髄内に注入してLysoPtdGlcが働かないニワトリ胚を作製したところ、このニワトリ胚では、痛覚神経突起が固有感覚神経突起とともに脊髄の後索まで進入して混線してしまうことが明らかになった。このことから、痛覚と固有感覚の神経突起の分別にはLysoPtdGlcの働きが必要であることが分かった。

 また、別の実験結果からは、LysoPtdGlcは神経細胞表面のGPR55を介して神経突起を反発することが分かったほか、GPR55ノックアウトマウスの脊髄では、痛覚神経突起が後根進入部を超えて後索へ入り込んでいることが観察された。

 これらの結果から、脂質LysoPtdGlcは、神経細胞表面のGタンパク質共役受容体GPR55を介して痛覚神経突起を反発し、これによって痛覚と固有感覚の神経突起が混線することなく別の目的地へ投射できることが明らかになった。

 今後は、今回の研究成果が、損傷した神経回路の修復技術の開発や、疼痛・骨疾患・肥満・炎症・がん転移など各種疾患の病態解明と治療法開発に役立つと期待される。

 なお、この内容は「Science」に掲載された。論文タイトルは、「Glycerophospholipid regulation of modality-specific sensory axon guidance in the spinal cord」。

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