【黒澤善行の永田町ウォッチ】小渕経済産業大臣と松島法務大臣が相次いで辞表を提出

2014年10月22日 11:04

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記事提供元:さくらフィナンシャルニュース

【10月21日、さくらフィナンシャルニュース=東京】

 今週20日、小渕経済産業大臣と松島法務大臣が安倍総理に相次いで辞表を提出した。第2次安倍内閣の看板政策のひとつ「女性活躍推進」を象徴する女性閣僚5人のうち2人が、約1カ月半で相次いで辞任に追い込まれる異例の事態となった。

■閣僚辞任は不可避に


 先週の国会審議で、小渕大臣は資金管理団体や関連政治団体での多額の不透明な資金処理を行っていた問題などで、松島大臣は有権者に似顔絵や政策、肩書きなどが記載されたうちわを配布したことが公職選挙法で禁じる寄付行為にあたる点などで、民主党など野党から追及されていた。

 また、民主党の階・衆議院議員が17日に松島大臣を公選法違反容疑で、群馬県の市民団体が20日に小渕大臣を政治資金規正法違反容疑などで、告発状を東京地検に提出した。さらに、民主党などが小渕大臣の不信任決議案提出に向けて検討にも入った。

 野党各党の攻勢が強まっていくなか、国政の重要課題や国会審議への影響、政権運営のダメージを最小限にとどめ、早期に政権基盤の立て直しを図るためにも「辞任はやむを得ない」との見方が政府・与党内で急速にひろがった。

 今月30日に沖縄の米軍普天間飛行場移設問題が争点となる沖縄県知事選(11月16日投開票)が告示される。年末には消費税率10%への引き上げ判断、年明けには九州電力川内原発の再稼働、平成27年度予算案の国会審議がある。

 春の統一地方選後には、集団的自衛権の行使容認に向けた安全保障法制の審議も控えている。今後、野党と対決する局面が続くことが予想されるだけに、政権基盤の安定が欠かせない。

 また、衆議院法務委員会でテロ資金提供処罰法改正案の審議入りメドがたたないなど、臨時国会の法案審議にも影響が出始めており、早期に事態を収拾する必要にも迫られていた。

■ダブル辞任で即日後任決定


 小渕大臣と松島大臣は、問題長期化による影響拡大を懸念して、早期に辞任する選択を行った。両大臣からの辞表を受理した安倍総理は、「2人を任命したのは私であり、任命責任は首相である私にあります。こうした事態になったこと、国民の皆様に深くおわびを申し上げる」と陳謝した。

 20日夜、安倍総理は、経済産業大臣に宮沢・自民党政調会長代理(参議院議員)を、法務大臣に上川・自民党女性活躍推進本部長を起用することを決定した。21日、宮沢氏と上川氏は、皇居での閣僚認証式に臨み、それぞれ大臣に就任した。その後、安倍総理から閣僚の辞令を受けた。

 安倍総理は、「政治、行政に難問が山積している。政治の遅滞は許されない」 、「経済最優先で政策を前に進めていかなければならない。行政と景気に遅滞があってはならない」点を強調して、人選を急いだ。

 党税制調査会メンバーで参議院政審会長も務めた宮沢大臣は、政策通として知られている。安倍総理は「成長重視の税制を含めて成長戦略をしっかりと進めていただきたい」と期待を述べた。第1次安倍政権で少子化担当大臣を務めた上川大臣については「法務大臣をしっかり務めていただけると確信している」と語った。

 臨時国会が開会中で国会運営への影響を最小限にとどめるため、女性登用にこだわらず、政策通・即戦力を重視して人選したようだ。

 20日の衆議院では、まち・ひと・しごと法案など地方創生2法案を審議する「地方創生特別委員会」が開会され、野党が質疑を行う予定だった。しかし、出席を求められていた小渕氏の大臣辞任で、小渕氏の出席そのものが困難となった。与党側は、経済産業大臣臨時代理となった高市総務大臣の出席のもと開会を打診したが、野党側はこれを拒否した。

 これにより、特別委員会は流会となった。

 与党側は、週内にも安倍総理出席のもと地方創生2法案の締めくくり質疑を行い、28日に衆議院を通過させたい考えだが、野党側は早期の審議再開には応じない構えをみせており、今後の審議日程にも影響が及びそうだ。

■野党、安倍総理の任命責任も追及へ


 政府・与党は速やかな後任決定で早期の事態収拾に踏み切ったが、野党は安倍総理の任命責任も問う方針だ。

 小渕大臣や松島大臣らを追及してきた野党各党は、「納得のいく説明ができない以上、辞任は当然」(海江田・民主党代表)、「政権運営に緩み、おごりが生じている。行政の長を任命するに当たり、事前のチェックなどやらなければならないことが十分できていない」(枝野・民主党幹事長)、「女性に焦点を当てる看板づくりを優先し、大臣の資質が後回しになったのではないか」、「疑惑は解明されていない」(山田・次世代の党幹事長)などと厳しい見方しており、安倍総理に対しても「任命責任は極めて重い」(小沢・維新の党国会議員団幹事長)と、衆参両院予算委員会での集中審議開催などを求めて徹底追及する構えだ。

 20日、民主党・維新の党・次世代の党・みんなの党・共産党など野党7党の幹事長・書記長らが緊急会談して、安倍総理の任命責任の追及に向けて足並みをそろえていくことを確認した。また、資金管理団体による政治資金収支報告書の記載ミスを訂正した江渡防衛大臣や、和牛商法の安愚楽牧場から献金を受け取った西川農林水産大臣らの問題追及に加え、閣僚を辞任した小渕氏と松島氏には、衆議院政治倫理審査会での弁明や予算委員会での証人喚問などを求めていくことも視野に、引き続き説明責任を果たすよう求めていくことでも一致した。

 今後、与野党による攻防激化が確実視されており、安倍総理は厳しい政権運営が迫られることとなりそうだ。

■女性活躍推進法案を国会に提出


 女性活躍推進をめぐっては、17日、女性の採用・昇進機会を増やす取り組み加速を企業などに促すことを目的に、従業員301人以上の大企業に採用者や管理職に占める女性割合、勤続年数の男女差などを把握したうえで、各企業の自主判断で最低1項目の数値目標を設定し行動計画とともに公表するよう義務付ける「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律案」を閣議決定し、衆議院に提出した。

 女性活躍推進法案<2016年度4月1日から10年間の時限立法>では、国や地方自治体にも同様の義務を課している。優れた取り組みを行う企業を国が認定して事業入札で受注機会を増やす優遇策についても盛り込まれた。ただ、企業の自主性を重んじて一律の数値目標が設けられず、従業員300人以下の企業に対しても努力義務にとどまった。また、国に虚偽報告などを行った場合の罰則は設けられ、国は必要に応じて助言や指導、勧告はできるものの、数値目標を設定・公表しない企業への罰則はないとしている。

 安倍総理が重要政策と位置付ける女性が輝く社会づくりを進めるべく、11月30日までの臨時国会中の成立をめざしている。

■与野党による日程闘争の影響の見極めを


 これまで与党ペースで進んでいた国会運営が、小渕氏や松島氏の辞任や、閣僚の資質問題を受け、与党側は、野党との審議の日程協議で強気に出られずにいる。

 21日の衆議院本会議で審議入りすることを与野党で合意していた「土砂災害防止法改正案」について、野党側が「異例事態で本会議には応じられない」として協議が続けられている。また、派遣労働者の柔軟な働き方を認め、3年経過した後に派遣先での直接雇用の依頼を派遣会社に義務づける「労働者派遣法改正案」について、政府・与党は当初、14日の改正案の審議入りをめざしていたが、軌道修正をよぎなくされているようだ。

 野党は、今後も安倍総理の任命責任も含め閣僚追及で共闘する方針で、国会日程をめぐる与野党攻防がより一層激化していくだろう。こうした日程闘争が、それぞれの法案審議にどのような影響が生じることとなるかを見極めていくことが重要だ。【了】

 黒澤善行(くろさわよしゆき)/愛知県春日井市生まれ。立命館大学政策科学部卒業、立命館大学政策科学研究科博士前期課程修了。毎日新聞社「週刊エコノミスト」記者、衆議院議員政策スタッフ、シンクタンク2005・日本(自民党系)研究員などを経て、従来の霞が関の機能を代替できる政策コンサル産業の成立を目指す株式会社政策工房の主任研究員に就任。主著に『できる総理大臣のつくり方』(春日出版、共編著)『ニッポンの変え方おしえます―はじめての立法レッスン』(春秋社)がある。政策工房Public Policy Review(http://seisaku-koubou.blog.jp)より、著者の許可を得て転載

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