【黒澤善行の永田町ウォッチ】第2次安倍改造内閣発足後、初めての国会となる第187臨時国会が召集

2014年10月2日 10:21

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記事提供元:さくらフィナンシャルニュース

【10月2日、さくらフィナンシャルニュース=東京】

 今週29日、第2次安倍改造内閣発足後、初めての国会となる第187臨時国会が召集された。

■臨時国会の日程をめぐって

 24日に開かれた衆議院議院運営委員会理事会で、臨時国会の日程について協議した。与党側は、安倍総理の所信表明演説に対する各党代表質問を翌30日から10月2日に衆参両院本会議で行い、安倍総理はじめ全閣僚が出席する予算委員会を10月3日と6日に衆議院で、7日と8日に参議院で開催する案を、野党側に打診した。民主党など野党は慣例通り所信表明から1日空けるよう主張したため、結論は持ち越しとなった。

 一方、野党側は、25日に国対委員長会談、幹事長・書記局長会談を開催して、(1)政府・与党が提示した臨時国会の会期11月30日までの63日間は「十分な審議を行ううえで不十分」との認識で一致したほか、(2)与党側の打診は日程として窮屈なものであり、質疑時間を十分確保して充実した審議を行うよう与党側に申し入れること、(3)各党代表質問は10月1日から行うべきだとして反対することについて確認した。

 野党各党の一任を取り付けた民主党は、26日、自民党・公明党と国対委員長会談を行って、国会日程について協議した。この結果、与党側の打診を受け入れる代わりとして、衆議院予算委員会での集中審議を10月中に開催することで折り合った。

■安倍総理、経済最優先を改めて表明

 開会日29日、安倍総理は、衆参両院本会議で所信表明演説を行った。

 安倍総理は、「成長戦略を確実に実行し、経済再生と財政再建を両立させながら、経済の好循環を確かなものとする」「景気回復の実感を全国津々浦々に届けることが、安倍内閣の大きな使命」と、今年4月の消費税率8&への引き上げや燃料価格の高騰などによる景気への影響にも慎重に目配りしながら、引き続きデフレ脱却に取り組んでいく決意を示して、経済最優先の政権運営を行う姿勢を改めて強調した。

 そして、地方の豊かな個性をいかすとともに、女性が活躍しやすい社会環境の整備を進めることで、まだまだ成長できるとして、こうした政策実現に全力を挙げていく方針を表明した。

 臨時国会を「地方創生国会」と位置づける安倍総理は、「人口減少や超高齢化など、地方が直面する構造的な課題は深刻だ」と訴えた。そして、「大きな都市をまねるのではなく、個性を最大限にいかしていく発想の転換が必要」「若者こそが危機に歯止めをかけるカギ」などと強調したうえで、若者にとって魅力のある町づくり・人づくり・仕事づくりを進めるため、まち・ひと・しごと創生本部を創設して「これまでと次元の異なる大胆な政策を取りまとめ、実行していく」と表明した。

 魅力的な町づくりや新事業に挑戦しやすい環境の整備を進めるため、政府調達での地方ベンチャー企業優遇や、融資基準の見直しなど具体策を講じていくとしている。また、地方を軸とした観光立国をめざして、増加傾向にある外国人観光客をさらに増やすべく、ビザ緩和や免税店の拡大などに戦略的に取り組んでいく考えを示した。

 成長戦略の柱の一つに据えている「女性の活躍」については、「女性の活躍は社会の閉塞感を打ち破る大きな原動力となる」「改革すべきは社会の意識そのもの」と訴え、国・地方・企業が一体となって、女性が輝く社会を構築するよう呼びかけた。上場企業に女性役員数の公開を義務付ける制度を導入する方針などを明らかにした。

 また、安倍総理は、農業・雇用・医療・エネルギーなどの岩盤規制改革にも、国家戦略特区を突破口に2年間であらゆる岩盤規制を打ち抜きたいとして、果敢に挑戦する決意を述べた。創業や家事支援などでの外国人労働者受け入れ促進・環境整備や、多様な価値に対応した公教育など改革メニューの充実を図るとともに、特区制度のさらなる拡充を進めるという。

 当面の最大焦点である消費税率10%に引き上げるか否かについては、12月8日発表の「7〜9月期国内総生産(GDP)2次速報値」などを見極めたうえで判断する方針だが、所信表明演説での言及は避けた。急激な円安進行や燃料高騰などの懸念要因が顕在化しつつあるだけに、臨時国会冒頭からの争点化を回避したい思惑があるようだ。

■復興加速、原発再稼働、災害に強い国づくりへ

 東日本大震災から復興については、除染加速で福島再生を成し遂げるとともに、農地の集積・多角化・6次産業化で農業者の所得を増やして地域のにぎわい創出、仮設住宅への巡回訪問など精神ケアも重視した支援などを進めていく考えを示した。

 原子力規制委員会により安全性が確認された原発については、再稼働に向け、立地自治体をはじめ関係者の理解を得るべく丁寧な説明を行って、避難計画の充実支援などに取り組むと述べた。その一方で、徹底した省エネルギーと再生可能エネルギー導入で、できる限り原発依存度を低減させていくとしている。

  また、全国各地で甚大な被害が発生していることを踏まえ、土砂災害警戒区域の指定や国民への情報提供が、より万全な体制で行えるよう制度の見直しを進めるとともに、災害時に救助活動に支障を来しかねない放置車両を移動できるよう災害対策基本法を改正するという。また、インフラ整備、避難計画の作成・周知、訓練実施など、国土強靱化も図るとしている。

■中国・韓国との関係改善をめざす

  外交面では、引き続き「地球儀を俯瞰する外交」「積極的平和主義」を、より積極的に展開していくスタンスを述べた。環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)交渉、EUや東アジアとの経済連携協定(EPA)交渉など戦略的に進めていくという。

 懸案となっている中国、韓国との関係改善への決意を新たにした。日中関係では、経済的な結び付きを重視した戦略的互恵関係を発展させ、安定的な友好関係を構築していくことをめざしていくと述べた。習近平国家主席との日中首脳会談を、11月に北京で開催されるアジア太平洋経済協力会議(APEC)を念頭に早期に実現する意欲を示している。日韓関係については、韓国を「基本的な価値や利益を共有する最も重要な隣国」と位置付け、「関係改善に向け、一歩一歩努力を重ねる」と表明した。

  沖縄基地問題については、現行の日米合意に従い、抑止力を維持しつつ、沖縄の基地負担軽減に向けて取り組む決意を示した。集団的自衛権行使の限定容認を含む7月の閣議決定を踏まえた安全保障法制整備については、「切れ目のない安全保障法制の整備に向けた準備を進める」と述べるにとどめた。

■地方創生関連2法案を国会提出

 政府は、安倍総理が看板政策に掲げる「地方創生」や「女性活躍」に関する推進関連法案をはじめ、約30本の法案を臨時国会に提出予定でいる。

  政府は、29日、地方創生の基本理念などを定めた「まち・ひと・しごと創生法案」と、地域支援をめぐる各省への申請窓口を一元化するとともに、活性化に取り組む自治体を支援するための「地域再生法改正案」を閣議決定し、臨時国会に提出した。まち・ひと・しごと創生法案は、総理大臣が本部長を務める「まち・ひと・しごと創生本部」を司令塔として法制化するとともに、地方創生の目標や施策の基本的方向を示す「総合戦略」策定、都道府県と市町村にも総合戦略を踏まえて地域の実情に応じた基本計画の策定を求めることなどが明記されている。

 女性の活躍を後押しする「女性活躍推進法案(仮称)」については、出産や育児、女性の職場環境の改善などに関連する政策パッケージをとりまとめ、法案化を急いでいる。

 また、24日に開かれた厚生労働大臣の諮問機関「労働政策審議会」分科会で、女性の登用状況についての情報開示を企業に義務付けるとともに、目標達成に向けた行動計画の策定を求める方向で一致した。厚生労働省は、10月上旬までに議論をまとめ、関連法案を国会提出する方向で進められている。

 ただ、経済界や企業経営者らの強い反発を受けて、開示義務の対象から従業員300人以下の中小企業を外し、大企業に限定されることとなった。また、女性管理職の登用比率の公表や目標設定も企業に義務づけない方向で答申案をまとめるようだ。現状の情報開示については、女性の管理職比率や採用比率など複数項目から企業に選択する方向で検討されている。

 女性管理職比率の公表が義務づけられなくなることで、女性登用がどの程度進むのかが見通せなくなる恐れも指摘されている。安倍内閣は「2020年までに女性管理職を3割に増やす」との目標達成を掲げているが、女性管理職比率の公表義務づけについて政府としてどのように判断を下すのかが注目ポイントとなるだろう。

 このほか、臨時国会では、

 ・安倍総理が所信表明演説で言及した「土砂災害防止法改正案」

 ・創業10年未満の中小企業の商品・サービスの政府調達を促進するため、

 官公需法など3法を一括して改正する「中小企業需要創生法案」

 ・通常国会で継続審議となった「特定複合観光施設整備推進法案」(議員立法)

 ・通常国会で廃案となり、政府が再提出する予定の「労働者派遣法改正案」

 ・テロリストなど国際連合安全保障理事会決議などに基づく資産凍結対象者の国内金融取引などを規制して資産凍結も可能にする法案

 などが審議される予定となっている。

■各党代表質問に注目

 政府・与党は、「地方創生」「女性活躍」を全面に打ち出す一方、与野党対決が不可避とみられる法案提出をなるべく控えるとともに、消費税率10%への引き上げ是非の判断を臨時国会閉会後に行うなど野党の追及を封じることで、無難に臨時国会を乗り切りたい考えだ。

 これに対し、野党側は与党との対決姿勢を強め、存在感を示そうとしている。民主党は、執行部を一新して、消費税率10%への引き上げに伴う増収分の使途、アベノミクスの国民生活や景気に与える影響、労働・雇用政策、安全保障などについて徹底追及したい考えだ。野党色を強める維新の党は、消費税率10%への引き上げに反対、審査制度に欠陥がある以上原発再稼働は容認できないとの立場から追及する構えで、安全保障法制も重要テーマと位置付けている。

 30日から3日間、衆参両院本会議で安倍総理の所信表明演説に対する各党代表質問が行われ、いよいよ国会論戦がスタートする。野党各党はどのようなテーマで論争をしかけ、安倍総理はどのような答弁を行うのだろうか。どのような臨時国会になるかを見極めるためにも、序盤でどのような与野党論戦が繰りひろげられるのかを抑えておくことが重要だ。【了】

 黒澤善行(くろさわよしゆき)/愛知県春日井市生まれ。立命館大学政策科学部卒業、立命館大学政策科学研究科博士前期課程修了。毎日新聞社「週刊エコノミスト」記者、衆議院議員政策スタッフ、シンクタンク2005・日本(自民党系)研究員などを経て、従来の霞が関の機能を代替できる政策コンサル産業の成立を目指す株式会社政策工房の主任研究員に就任。主著に『できる総理大臣のつくり方』(春日出版、共編著)『ニッポンの変え方おしえます―はじめての立法レッスン』(春秋社)がある。政策工房Public Policy Review(http://seisaku-koubou.blog.jp)より、著者の許可を得て転載

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※この記事はSakura Financial Newsより提供を受けて配信しています。

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