歯科医療と市場原理の矛盾 しわ取りを行う医院が急増

2014年9月19日 16:06

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記事提供元:エコノミックニュース

 厚生労働省によると、2011年10月1日現在の歯科医院の数は68,156件。その数はコンビニエンスストアより多く、歯科業界は過当競争の状態が続いている。そんな中、ヒアルロン酸注入によるしわ取りを行う歯科医院が増えているという。

 美容外科が治療する際に用いるイメージが強いヒアルロン酸。歯科医が使用することに違法性はないのだろうか。施術の根拠を求めるには18年目さかのぼる必要がある。旧厚生省の歯科口腔外科に関する検討会が1996年に出した通達で、歯科の診療対象に口唇が含まれた。口唇とは口周り全体を指すため、鼻の下やほうれい線のしわ取りも治療対象になる。そのため現在ヒアルロン酸注入を行っている多くの歯科医院が、この時の見解を踏まえてサービスを提供。日本歯科医師会も違法性はないとの見方をしている。

 過当競争の結果、歯科医師の廃業が増えている。2013年度の倒産件数は、帝国データバンクの調査では06年以降で過去最多。そのため保険点数で経営が成り立たない歯科医院は、インプラントなどの保険外治療を増やし、患者一人当たりの単価を上げて凌いでいる。今回のヒアルロン酸注入によるしわ取りは、この延長上にあると言える。しかし、インプラントや審美など稼げる治療分野には他の歯科医院も参入し価格崩壊が起こるため、経営の根本的な建て直しには結び付きづらい。 

 一方で歯科業界では、8020運動という治療から予防への流れを促す活動が推し進められている。1989年に旧厚生省と日本医師会によって始められたこの運動が目標に掲げるのは、80歳になっても自分の歯を20本以上保つこと。そのため歯科保健指導を主に行う歯科衛生士の役割が重要になっており、多くの歯医者で採用が進められている。歯科の保険点数にも歯科衛生実地指導料が含まれるなど、優秀な歯科衛生士を採用できるかどうかが歯科経営を左右するようにもなってきた。

 市場原理を追求するあまり適正な医療サービスが受けられなくなるのは国民にとってマイナスとなる。予防と治療という歯科本来のサービスの質の向上が、いま歯科医院には求められている。(編集担当:久保田雄城)

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