高まる離職率を背景に、注目が高まる福利厚生

2014年8月30日 22:47

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記事提供元:エコノミックニュース

 安倍首相が掲げる成長戦略の目玉の一つに「女性の活躍推進」がある。具体的には、2020年までに指導的地位に占める女性の割合を30%にするという数値目標を立て、経済界にも女性管理職の登用を促しているが、一方では少子化対策と相反するのではないかと懸念する声も挙がっている。それでも政府が、女性の職場での地位向上を目指す理由はなんだろうか。

その一つの理由として考えられるのが離職率の上昇だ。現に、厚生労働省が2013年12月に発表した「新規大学卒業就職者の産業別離職状況」によると、大卒新規採用者の3年目の離職率は6年ぶりに上昇し、31.0%となっている。つまり、大卒者の3人に1人が就職後わずか3年以内に離職しているというのだ。

 離職理由は多岐に渡るが、若年層の離職者で最も多い理由が、労働条件などの待遇の問題だ。他、給与面の問題やストレスなどもある。とくに最近はブラック企業などという呼び方が流行していることもあって、少しでも待遇が悪かったり不満があったりすると、自身の勤める会社をブラックと考え、自己暗示をかけてしまうことも少なくないようだ。また、団塊の世代ではよく言われた「会社に骨を埋める」的な精神はすでに失われ、離職や転職に対するハードルはずいぶん低くなっているようだ。

 もちろん、多くの企業にとって、このような状況は決して歓迎されるものではない。3年で辞めてしまうかも知れないような新入社員に責任の大きな仕事は任せられない。そうなると当然、新入社員のモチベーションも上がらないし、給料も上げられない。しかし、モチベーションや給料が上がらないと不満が募り、離職の可能性を高めてしまうという悪循環が起こる。

 このような状況を断ち切る一つの施策に福利厚生の充実がある。魅力的な福利厚生は、社員の働きやすさやモチベーションの向上につながり、内容によっては賃金への上乗せのようなものもあるため、離職の抑止に?がるほか、就職希望者の大きな関心事の一つにもなる。90年代のバブル期以降は多くの企業で福利厚生の予算が縮小される傾向にあったが、ここに来て、福利厚生を見直す動きが高まっている。

 福利厚生といっても、企業によって千差万別だ。休暇や保養施設、社員割引などの一般的なものから、企業独自のユニークなものもある。

 例えば、トヨタグループの大手自動車部品メーカーであるアイシン精機では、保養施設や住宅ローンなどの融資支援のほかに、カフェテリアプランと呼ばれる選択型福利厚生制度を導入している。活用したい福利厚生は人や年齢によって様々であることから、社員全員に公平なポイントを付与し、必要性に応じて使い道を選ぶことができる。ポイントは旅行費用などにも充てることができるという。

 現在、注目されているエネルギー関連では、ハウスメーカーのアキュラホームが、従業員とその親族が自宅に太陽光を搭載する場合、同社創業35周年を記念した補助金と、環境貢献推奨金を支給する「太陽光発電搭載サポート制度」を新設したことで話題になっている。期間限定で定員もあるものの、専用の社内融資制度や売電収入を試算すれば、費用の負担なく太陽光発電を搭載することも可能だ。早期に初期費用が返済できるので、その後の安定収入が望める。

 また、「健康産業に従事する者は心身ともに健康でなければならない」という社訓をもつロート製薬では2004年に薬膳料理やリフレクソロジー、フットケアなどが受けられる福利厚生施設「スマートキャンプ」を開設しているが、好評なこともあって、一部施設を一般にも開放していることで知られている。

 今後、ロート製薬やアキュラホームのように自社の製品やサービスを利用したユニークな福利厚生が増えてくるのではないだろうか。他社との差別化にもなるし、自社の製品やサービスを深く理解させることができるので社員教育の側面もある。自身が使っている製品やサービスがよければ、自然に愛社精神も育まれるだろう。(編集担当:石井絢子)

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