【経済分析】米国株最高値更新&金利低下の謎を解く(下)

2014年5月24日 22:32

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記事提供元:さくらフィナンシャルニュース

(図2)米国の製造業の景況感を表す代表的な指標であるISM景況指数の新規受注とフィラデルフィア連銀景況指数の中の期待指数の推移

(図2)米国の製造業の景況感を表す代表的な指標であるISM景況指数の新規受注とフィラデルフィア連銀景況指数の中の期待指数の推移[写真拡大]

  • (図3)米国の景気先行指数とその構成指標の一つであるS&P500の推移

【5月24日、さくらフィナンシャルニュース=東京】図2は米国の製造業の景況感を表す代表的な指標であるISM景況指数の新規受注とフィラデルフィア連銀景況指数の中の期待指数の推移です。いずれも景気が前月から良くなったか悪化したか、6か月先の景気が良くなるか悪くなるかという変化の方向を企業の担当者に尋ねた景況調査です。現在が良いか悪いかという「水準」よりも「変化の方向」の方が景気の動きを先取するため、景気先行指標として市場の注目度も高い指標です。

 グラフを見ると、いずれも昨年後半に急上昇して秋から年末にかけてピークをつけたあと、今年に入ってから急低下しており、景気のモメンタムが鈍化したことがわかります。冬の寒波の影響もあったとみられますが、影響がすでになくなっているにも拘わらず現在の指標の水準は昨年のピークをかなり下回っており、寒波の影響だけではないモメンタムの基調の変化が背景にあることを伺わせます。米国の長期金利や株価のモメンタムの低下は、このような米景気のモメンタムの低下が背景にあるとみられます。

 22日には4月の米景気先行指数が発表され、前月比0.4%上昇と上昇基調が続いており、米景気の先行きにとっては明るい材料となっています。ただ、この景気先行指数もまた前年比でみると、4月はプラス5.7%上昇と3月のプラス6.2%から伸びがやや鈍化しています。図3からもわかるように、景気先行指数とその構成指標の一つであるS&P500の前年比をみると、ほぼ同じ方向に動いており、株価の前年比のピークアウトはやがて景気先行指数がピークアウトすることを示唆しているように見えます。

 ちょうど現在と同じように長期金利が低下する中で株価が上昇を続けた時期が2000年前半にもありました。この時も、株価は上昇していましたが、株価の前年比の伸びや製造業の景況指数は鈍化傾向に転じていました。S&P500がピークをつけたのは2000年8月でしたが、ナスダック指数は先行してすでに3月にピークアウトしていました。ITバブルのピークであった2000年と現在はこうした状況が良く似ています。

 今後、米国の景気や株価を見る場合には、水準よりもモメンタムに注意を払う必要があります。【了】

のだせいじ/埼玉県狭山市在住の在野エコノミスト
1982年に東北大学卒業後、埼玉銀行(現埼玉りそな銀行)入行。94年にあさひ投資顧問に出向し、チーフエコノミストとしてマクロ経済調査・予測を担当。04年から日興コーディアル証券FAを経て独立し、講演や執筆活動を行っている。専門は景気循環論。景気循環学会会員。著書に『複雑系で解く景気循環』(東洋経済新報社)『景気ウォッチャー投資法入門』(日本実業出版社)がある。著者のブログ『私の相場観』より、本人の許可を得て転載。

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