【経済分析】米国株最高値更新&金利低下の謎を解く(上)

2014年5月24日 22:33

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記事提供元:さくらフィナンシャルニュース

10年国債利回りに対してS&P500の水準(上のグラフ)と前年同月比(下のグラフ)をそれぞれ重ねたもの

10年国債利回りに対してS&P500の水準(上のグラフ)と前年同月比(下のグラフ)をそれぞれ重ねたもの[写真拡大]

【5月24日、さくらフィナンシャルニュース=東京】昨日のNY市場では、S&P500が終値で初めて1900を超え、最高値を更新しました。メディアの市況解説をみると、昨日発表された4月の新築住宅販売が前月比6.4%増の43万3千戸(年率)と市場予想を上回り3か月ぶりに増加したことが株式市場に好感されたとのことです。

 その一方で、債券市場は上昇し10年国債利回りは0.02%低下の2.53%で引けています。強い景気指標を受けて景気回復への期待が高まれば、普通であれば債券は売られて10年国債利回りは上昇するはずです。市況解説では、ウクライナの混乱(武力衝突で25日の大統領選の準備に影響が出ている)や欧州の景気減速(昨日ドイツで発表された5月のIFo景況感指数が予想以上に悪化した)を受けて逃避需要が強まったことが理由にあげられており、「新築住宅販売の増加は債券市場では材料視されなかった」とあります。

 しかし、このような市況解説を読んでもどうも釈然としない、というのが正直なところではないでしょうか。

 米国のマーケットでは、昨日に限らず、底堅い景気指標を受けて株式市場は上がるのに、金利は低下するという逆転現象がこのところの傾向となっています。今回はこのナゾを解いてみたいと思います。

 図1の2つのグラフは、10年国債利回りに対してS&P500の水準(上のグラフ)と前年同月比(下のグラフ)をそれぞれ重ねたものです。上のS&P500の水準のグラフを見ると、今年に入ってから株価が上昇し長期金利が低下しているこのところの傾向が確認できます。一方、株価を前年比にした下のグラフを見ると、今年に入ってから長期金利の低下に合わせて株価の前年比の伸びも低下していることがわかります。今年に限らず、長期金利は株価の水準よりも前年比の方に連動していることがわかります。

 5/13のブログにも書いたように、指標の足元の変化を見る場合には「前年同月比」ではなく季節調整値の「前月比」で見なければいけませんが、一方で、指標がどのようなトレンドに沿って動いているのか、その変化の方向や勢い(モメンタム)は「前年同月比」の方によく現れ、しかも、水準よりも転換点が早く訪れることが多いので、そのトレンドが変わらなければ「前年同月比」を見ることによって指標の先行きを予測することが可能となります。

 米国株の場合、S&P500は足元で最高値を更新していますが、前年同月比という変化率でみると、グラフに見るように昨年11月のプラス27.9%をピークに、この5月(5/1〜5/23の月中平均)には前年同月比プラス14.9%まで伸びが低下しています。株価の水準は上昇しているもののその勢い(モメンタム)は鈍化傾向にあり、もしこのトレンドが続くとすると年末には前年比ゼロまで伸びが鈍化し、年央のどこかで(通常は前年比ゼロとなる半年ほど前に)株価の水準はピークをつけることが予想されます。足元の長期金利の低下は株価のこのようなモメンタムの鈍化を反映していると考えられます。

 発表される景気指標は良好で、景気のトレンドが上向きにも拘わらず、なぜ長期金利や株価のモメンタムが低下しているのか。ここでも、景気指標を水準で見るか変化率でみるかによって、景気に対する見方が異なってきます。【続】

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