新型陽子線がん治療システム導入施設が完成 北大と日立が共同開発

2014年3月29日 19:35

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記事提供元:エコノミックニュース

 またひとつがん治療が大きく進展した。国立大学法人北海道大学と日立製作所<6501>は17日、共同で開発を進めてきた新型陽子線がん治療システム「陽子線治療システム PROBEAT-RT」が完成し、このシステムを導入した施設が北海道大学病院内に竣工したと発表した。

 「最先端研究開発支援プログラム」は、科学技術政策による大型の研究支援制度。2009年に公募が行われ、北大からは医学研究科白土博樹教授の「持続的発展を見据えた『分子追跡放射線治療装置』の開発」が採択された。この研究は、放射線医療分野として唯一の採択であり、今後の日本の放射線医療/がん治療技術の発展を牽引するプロジェクトとして内外から注目を集めているという。

 北大がX線治療で培った「動体追跡照射技術」と、日立が一般病院に導入した「スポットスキャニング照射技術」を組み合わせ、肺や肝臓など、呼吸等で位置が変動する腫瘍に対しても、精度よく陽子線を照射することができる。この研究は世界初の試みで、正常部位への照射を大幅に減らすことができる治療システムの開発と、全体を小型化し、低コストで国際競争力の高い治療システムの開発を目標としている。

 北大では、今回完成した施設で、共同開発により小型化した「陽子線治療システム PROBEAT-RT」を用いて、「スポットスキャニング照射技術」を適用した治療を行う。「動体追跡照射技術」を組み合わせた治療システムの早期実現を目指す。この治療システムについては、薬事法の製造販売承認を申請中であり本年度上期中の承認取得および治療開始を目指すという。

 スポットスキャニング照射技術とは、腫瘍を照射する陽子線のビームを従来の方式のように拡散させるのではなく、細い状態のまま用い、照射と一時停止を高速で繰り返しながら順次位置を変えて陽子線を照射する技術。複雑な形状をした腫瘍でも、その形状に合わせて、高い精度で陽子線を照射することができ、正常部位への影響を最小限に抑えることが可能だという。

 動体追跡照射技術は、腫瘍近傍に金マーカーを刺入し、CT装置で予め腫瘍中心との関係を把握しておく技術。2方向からのX線透視装置を利用し、透視画像上の金マーカーをパターン認識技術にて自動抽出し、空間上の位置を周期的に繰り返し計算する。そして、金マーカーが計画位置から数mmの範囲にある場合だけ治療ビームを照射。これを高速で行うことで、呼吸等により体内で位置が変動するがんでも高精度での照射を行うことが可能になるという。これにより、動いているがんの範囲をすべて照射する方法に比べて、照射体積を1/2~1/4に減らし、正常部位への照射を大幅に減らすことが可能になる。

 「陽子線治療システム PROBEAT-RT」は、陽子線がん治療の世界的な普及をめざして北大と日立が共同開発したコンパクトで低コストの陽子線がん治療装置だ。照射方式をスポットスキャニング照射方式のみに特化することを前提に、北大の放射線治療で培ってきた知見と、日立の持つ設計技術の融合により、ガントリー・照射ノズル・加速器を小型化した。システム全体の設置面積を従来装置より約7割に縮小した。

 北大では、すでにこの施設での治療を19日から開始している。新技術はがん治療における陽子線ビームの正常部への照射を減らすため、患者の体力消耗や負担が激減すると思われる。成果に期待したい。(編集担当:慶尾六郎)

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